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日別アーカイブ: 2025年8月19日

第14回海洋運送業雑学講座

皆さんこんにちは!

合資会社大坪組、更新担当の中西です。

 

~強い海運~

世界の物流は海が運びます。だからこそ海運には、コスト競争力環境性能、そしてスケジュール安定の三立が求められます。本稿は、現場で効く「脱炭素と運航最適化」を、燃料・運航・データ・港湾協業の4レイヤーに分けて“実装の順番”まで落とし込んだガイドです。


1. 脱炭素はコストの話——“効率→燃料→設計”の順で投資する

脱炭素はイメージではなく燃費=コストの話。優先順位は次の通りです。

  1. 効率改善(OPEX小・即効性大)

  • スピードマネジメント(最適速力・スロースチーミング)

  • 船底/プロペラの定期清掃・研磨

  • トリム最適化・ウェザールーティング

  • JIT(ジャストインタイム)入港による待機燃料の削減

  1. 燃料転換(中期投資)

  • ドロップイン系:バイオ燃料(混焼で導入容易)

  • 新燃料:LNG、メタノール、アンモニア等(設計・供給網が前提)

  1. 設計・装置(CAPEX大・長期)

  • 風力補助(ローターセイル等)、空気潤滑、廃熱回収

  • 新船・改造(燃料仕様、電装・配管刷新)

まずは運航効率で“今ある船”の燃費底上げ → 次に燃料 → 最後に設計。この順に進めると投資効率が高まります。


2. 運航最適化:船の一日を「数字」で運転する

2-1. 速力と到着時刻の設計

  • “速度一定”から“到着時刻一定”へ。
    天候・潮流・バース空き状況に合わせ、到着時刻を厳守しつつ燃料極小化を目指す。

2-2. 船体性能の維持

  • 船底・プロペラの汚損度をKPI化(燃費悪化率で可視化)。

  • 研磨・洗浄は航路・水温・寄港地に合わせた最適周期で。

2-3. トリム・ドラフトの最適化

  • 積付計画と連動し、波浪・喫水制限を踏まえたトリム設定を標準化。

  • デッキ上の風圧・波当たりも考慮し、航海中に微調整。

2-4. 気象・海象活用

  • 風・波・海流予測を踏まえたウェザールーティングで、燃費と安全余裕を同時確保。


3. データとKPI:紙の日報を“意思決定装置”に変える

  • データ粒度:Noon Report(1日1回)から、エンジン・燃料・環境センサの高頻度化へ。

  • KPI例

    • gCO₂/トン・海里、燃費(t/day, t/round)

    • 時間チャーター等価(TCE)、オンタイム率、寄港“窓”遵守率

    • 船底・プロペラ汚損指標、待機時間(沖待ち/岸壁待ちの内訳)

可視化→標準化→例外対応の順で、現場に“効く”運用へ。ダッシュボードは「船・航路・港」の3軸で切ると原因が見えます。


4. 港湾・ターミナルとの“同時最適”

4-1. バースウィンドウの確実化

  • 遅れの連鎖を防ぐ要は港での予見性。スロット/窓の見直し、JIT入港の情報連携を。

4-2. ポートコール最適化

  • 接岸→荷役→出港の標準作業時間を再設計。

  • 書類・承認プロセスを事前電子化し、岸壁滞在を短縮。

4-3. 陸への波及:内陸輸送・デポ回転

  • フィーダー・鉄道・トラックの連携で集疎効率を平準化。

  • コンテナデポの滞留日数をKPI化し、回転率を改善。


5. 新燃料の“使い分け”簡易マップ

  • バイオ燃料:即導入可、既存主機で混焼。供給と価格が鍵。

  • LNG:SOx/NOx低減、インフラ前提。メタンスリップ対策が論点。

  • メタノール:取り扱い容易、エンジン対応が進む。燃費密度は要注意。

  • アンモニア:将来の有力候補。毒性と燃焼特性に留意、港湾側の準備が必要。

  • 陸電(SSE/OPS):停泊時の排出と騒音を抑制。港の設備状況で評価。

結論:単一解はない。航路・船型・寄港地のインフラを軸に複線で進めるのが現実解。


6. 財務・調達:CAPEXと“グリーンプレミアム”の扱い

  • CAPEXは燃費改善OPEXで何年回収かを明確化。

  • 燃料プレミアム(グリーン燃料の割高分)は、荷主と共有するスキームを早期に整備。

  • 長期契約(COA等)では燃料条項環境付加価値の扱いを事前に合意。


7. 実装チェックリスト(そのまま使える)

  • 速力・ETA基準を“到着一定”に切替

  • 船底・プロペラ清掃の閾値周期を規定

  • トリム・ドラフトの標準設定表を整備

  • ウェザールーティングの採否基準(波高・風・回避率)

  • JIT入港の情報連携(ETA/バース/荷役窓)

  • KPIダッシュボード(船×航路×港)を週次レビュー

  • 燃料ポートフォリオ(ドロップイン→新燃料)計画

  • CAPEX回収年数・燃料条項・グリーン価値の契約整備


効率→燃料→設計→協業の順に打ち、KPIで回す。
海運の競争力は、日々の速力と到着、そして岸壁の一時間に宿ります。小さな改善を回し続ける会社が、コストでも環境でも勝ちます。

 

 

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