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月別アーカイブ: 2025年8月

第15回海洋運送業雑学講座

皆さんこんにちは!

合資会社大坪組、更新担当の中西です。

 

~荷主のための“海上輸送”~

 

海上輸送はコストメリットが大きい一方、書類・容器・港湾プロセスなど特有の作法があります。本稿は、初めてでも失敗しないための実務テンプレをまとめた“荷主目線”の教科書です。


1. FCLかLCLか——まずはモード選択

  • FCL(Full Container Load):1本を占有。破損・盗難リスク低、単価も下がりやすい。一定量を超えるなら第一候補。

  • LCL(Less than Container Load):混載。小口に有利だが、貨物の扱い回数・リードタイムが増えがち。梱包と余裕日程が前提。

目安:20FTで15〜18m³以上ならFCL検討。重量貨物は重量限界も要確認。


2. インコタームズの要点(コストとリスクの分岐点)

  • EXW/FCA:引取り〜輸出通関の手配が買主側に。

  • FOB:本船渡し。海上運賃以降は買主負担。

  • CFR/CIF:運賃(+保険)込み。保険条件の確認を。

  • DAP/DDP:輸入地まで販売者手配。関税・税金の責任範囲を明確に。

社内合意は「誰が・どこで・何を」まで一行で書けること:例)“FOB上海:本船手配は売主、保険は買主”。


3. 書類の“落とし穴”回避

  • B/L(船荷証券):Original/Surrendered/Seaway Bill を使い分け。

  • VGM:コンテナ総重量の申告。計量方法・締切に注意。

  • SI(Shipping Instruction):B/L記載内容の原本。社名・住所・INCOが発票と一致しているか要チェック。

  • Invoice & Packing List:HSコード、原産地、数量・重量・容積の整合を。

  • 原産地証明・各種証明:輸入国要件を事前確認。


4. コンテナの種類と選び方(用途別の“定番”)

  • Dry(20/40/40HC):一般貨物。HCは高さが取りやすい。

  • Reefer:温度管理(冷凍・冷蔵)。設定温度・許容変動・積載率のバランスが鍵。

  • Open Top:上積みOK。背高貨物・天井クレーン積みに。

  • Flat Rack:幅・高さ超過の重量物に。固縛計画が命。

  • Tank:液体化学品・食品。残洗基準やバルブ仕様を事前確認。

選定時は寸法・重量・固定点(ラッシングリング)を図面化。Reeferは設定温度・除湿・換気の条件書を必ず添付。


5. 梱包・固縛・防湿:海上特有のリスク対策

  • 梱包:角当たり防止(コーナーパッド)、点荷重→面圧化(ハニカム/合板)。

  • 固縛:ベルト交差掛け+木材ダンネージ。長手方向の空隙は必ずブレーキ。

  • 防湿:乾燥剤・ベーパーライナー。金属部材は防錆紙で包む。

  • 重量物:床面耐荷重(kg/㎡)と重心を確認。Flat/OTはチェーンターンバックルで回転抑止。


6. 危険物・リーファーの追加ルール

  • 危険物(IMDG系):等級・UN番号・パッキンググループ・ラベル・書類。港湾受入の可否船社制限を二重確認。

  • リーファー事前予冷、温度ロガー、ドア開放最小化。温度逸脱時の連絡体制と“受入時測温”をルール化。


7. 費用の読み方:見積の“行間”を読む

  • 海上運賃(BASIS)サーチャージ(例:燃料・通貨・セキュリティ等)

  • 港費:THC、D/O、CFS(LCL)、書類費用

  • 内陸費:トラック/鉄道、待機料

  • 滞船・滞箱(D&D)フリータイムと超過単価は最重要

  • 保険:条件・免責・対象/不担保を確認

同じ総額でもフリータイム・条件次第で実コストが変わります。総額だけでなく条件表で比較しましょう。


8. 典型トラブルと“前倒し”回避策

  • ロールオーバー(船に積まれない)→ ブッキング確定の締切順守、スペース確保の契約。

  • ドキュメント不一致 → 発票・PL・SIの三点突合を標準化。

  • D&D膨張 → 通関・配送の事前予約、遅延時のフリー延長交渉

  • 破損・結露 → 梱包・固縛・防湿を写真+チェックリストで標準化。

  • 温度逸脱 → リーファーはロガーと受入測温を必須に。


9. 予約から引渡しまで

  1. 需要確定(数量・納期・INCO)

  2. 見積&条件表比較(フリータイム/サーチャージ/支払条件)

  3. ブッキング(スペース確保・VGM/カット日確認)

  4. 梱包・固縛・防湿(写真ルール)

  5. 通関・搬入(CY/CFS、カット順守)

  6. 出港(B/L発行:オリジナルorサレンダー)

  7. 輸入地手配(通関・配送予約・フリー管理)

  8. 到着・引取(ダメコン・数量検品・温度/外観確認)

  9. 請求・原価確定(D&D精算、保険対応)


10. KPIダッシュボード例(荷主向け)

  • 納期遵守率(OTIF)、総リードタイム、遅延原因の構成比

  • 1TEUあたり総コスト(海上+港費+内陸+D&D)

  • D&D発生率と平均金額、フリー消化率

  • 破損・温度逸脱率、保険クレーム率

  • CO₂排出推計(サプライヤ評価にも活用)


海上輸送は、容器(コンテナ)選定→書類→梱包/固縛→港湾手配の順に“前倒し”で組めば安定します。費用は条件表で、リスクは**標準化(写真・チェック)**でコントロールしましょう。

 

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第14回海洋運送業雑学講座

皆さんこんにちは!

合資会社大坪組、更新担当の中西です。

 

~強い海運~

世界の物流は海が運びます。だからこそ海運には、コスト競争力環境性能、そしてスケジュール安定の三立が求められます。本稿は、現場で効く「脱炭素と運航最適化」を、燃料・運航・データ・港湾協業の4レイヤーに分けて“実装の順番”まで落とし込んだガイドです。


1. 脱炭素はコストの話——“効率→燃料→設計”の順で投資する

脱炭素はイメージではなく燃費=コストの話。優先順位は次の通りです。

  1. 効率改善(OPEX小・即効性大)

  • スピードマネジメント(最適速力・スロースチーミング)

  • 船底/プロペラの定期清掃・研磨

  • トリム最適化・ウェザールーティング

  • JIT(ジャストインタイム)入港による待機燃料の削減

  1. 燃料転換(中期投資)

  • ドロップイン系:バイオ燃料(混焼で導入容易)

  • 新燃料:LNG、メタノール、アンモニア等(設計・供給網が前提)

  1. 設計・装置(CAPEX大・長期)

  • 風力補助(ローターセイル等)、空気潤滑、廃熱回収

  • 新船・改造(燃料仕様、電装・配管刷新)

まずは運航効率で“今ある船”の燃費底上げ → 次に燃料 → 最後に設計。この順に進めると投資効率が高まります。


2. 運航最適化:船の一日を「数字」で運転する

2-1. 速力と到着時刻の設計

  • “速度一定”から“到着時刻一定”へ。
    天候・潮流・バース空き状況に合わせ、到着時刻を厳守しつつ燃料極小化を目指す。

2-2. 船体性能の維持

  • 船底・プロペラの汚損度をKPI化(燃費悪化率で可視化)。

  • 研磨・洗浄は航路・水温・寄港地に合わせた最適周期で。

2-3. トリム・ドラフトの最適化

  • 積付計画と連動し、波浪・喫水制限を踏まえたトリム設定を標準化。

  • デッキ上の風圧・波当たりも考慮し、航海中に微調整。

2-4. 気象・海象活用

  • 風・波・海流予測を踏まえたウェザールーティングで、燃費と安全余裕を同時確保。


3. データとKPI:紙の日報を“意思決定装置”に変える

  • データ粒度:Noon Report(1日1回)から、エンジン・燃料・環境センサの高頻度化へ。

  • KPI例

    • gCO₂/トン・海里、燃費(t/day, t/round)

    • 時間チャーター等価(TCE)、オンタイム率、寄港“窓”遵守率

    • 船底・プロペラ汚損指標、待機時間(沖待ち/岸壁待ちの内訳)

可視化→標準化→例外対応の順で、現場に“効く”運用へ。ダッシュボードは「船・航路・港」の3軸で切ると原因が見えます。


4. 港湾・ターミナルとの“同時最適”

4-1. バースウィンドウの確実化

  • 遅れの連鎖を防ぐ要は港での予見性。スロット/窓の見直し、JIT入港の情報連携を。

4-2. ポートコール最適化

  • 接岸→荷役→出港の標準作業時間を再設計。

  • 書類・承認プロセスを事前電子化し、岸壁滞在を短縮。

4-3. 陸への波及:内陸輸送・デポ回転

  • フィーダー・鉄道・トラックの連携で集疎効率を平準化。

  • コンテナデポの滞留日数をKPI化し、回転率を改善。


5. 新燃料の“使い分け”簡易マップ

  • バイオ燃料:即導入可、既存主機で混焼。供給と価格が鍵。

  • LNG:SOx/NOx低減、インフラ前提。メタンスリップ対策が論点。

  • メタノール:取り扱い容易、エンジン対応が進む。燃費密度は要注意。

  • アンモニア:将来の有力候補。毒性と燃焼特性に留意、港湾側の準備が必要。

  • 陸電(SSE/OPS):停泊時の排出と騒音を抑制。港の設備状況で評価。

結論:単一解はない。航路・船型・寄港地のインフラを軸に複線で進めるのが現実解。


6. 財務・調達:CAPEXと“グリーンプレミアム”の扱い

  • CAPEXは燃費改善OPEXで何年回収かを明確化。

  • 燃料プレミアム(グリーン燃料の割高分)は、荷主と共有するスキームを早期に整備。

  • 長期契約(COA等)では燃料条項環境付加価値の扱いを事前に合意。


7. 実装チェックリスト(そのまま使える)

  • 速力・ETA基準を“到着一定”に切替

  • 船底・プロペラ清掃の閾値周期を規定

  • トリム・ドラフトの標準設定表を整備

  • ウェザールーティングの採否基準(波高・風・回避率)

  • JIT入港の情報連携(ETA/バース/荷役窓)

  • KPIダッシュボード(船×航路×港)を週次レビュー

  • 燃料ポートフォリオ(ドロップイン→新燃料)計画

  • CAPEX回収年数・燃料条項・グリーン価値の契約整備


効率→燃料→設計→協業の順に打ち、KPIで回す。
海運の競争力は、日々の速力と到着、そして岸壁の一時間に宿ります。小さな改善を回し続ける会社が、コストでも環境でも勝ちます。

 

 

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